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ポルノなのか? ドラマなのか? 萌え絵のパラドックス。

 「狐の王国」の「萌え絵はポルノではなく、人間への回帰なのである」という記事を読ませていたきました(http://koshian.hateblo.jp/entry/20150916/1442403299)。

 非常に面白い内容で、感銘を受けたのですが、その一方で「萌え絵とポルノが無関係である」とする主旨には、やや違和感が残りました。

 個人的には、萌え絵とポルノ、あるいは「性的なもの」は深く関係していると考えるからです。

 とはいえ、90年代、ゼロ年代と萌えカルチャーを消費しながら過ごしてきたひとりとして、この記事の論旨は非常に納得がいくものでもあります。

 おそらく、この論旨は間違えていないのです。しかし、同時に完全に「萌え」という概念を掘り尽くしていないのではないか、とも感じます。そこで、ぼくなりの「萌え」論として、いくらか自分の意見を書いておきたいと思います。

 さて、上記記事では結論として、このようなことが書かれています。

 以上のように、萌え絵の起源は少女雑誌であり、行き着いた先は脱ポルノである。またよく言われるような性的モノ化ではなく、絵というモノに人格と物語を与えるヒト化でもあることがお分かりいただけるだろう。この他ライトノベルと呼ばれるジャンルにおける挿絵や80年代ロリコンブーム、宮崎アニメにおけるペドフィリア的特性にも言及したかったのだがタイミングがなかった。

 こうした萌え絵の脱ポルノの歴史を踏まえずポルノで利用されてきたシーンを誇張するから村上隆のフィギュアはたいへん嫌われるのである。もちろん商業的にポルノ的側面を誇張した萌え絵作品も現代においても存在する。だが萌え絵の本質的なあり方ではない。

 萌え絵は少女雑誌から来て、ただの絵に人格をもたらしたある種の「人間の再生」なのである。

 ここに至るまでの論考はぜひリンクから読んでいただきたいのですが、つまり、アダルトゲーム(エロゲ)というポルノに始まった「萌え」は、最後にはテレビアニメなどを通して一般化し、「脱ポルノ」を果たした、ということだと思います。

 繰り返しますが、20年前、当時の性能の低いパソコンで必死に『To Heart』やら『Kanon』やら『Piaキャロットへようこそ!』やらを遊んでいた人間としては、十分に理解できる理屈です。

 たしかに、あの頃に発売されたアダルトゲームの名作、特に葉鍵系と呼ばれるLeafとKeyの作品群は、ほとんど「エロシーンなどどうでも良い」というか、「むしろエロシーンは邪魔」としかいいようがないしろものでした。

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 そしてそれらは、いずれもコンシューマーゲーム化、アニメ化されて広く親しまれることになります。この点を重視して、「萌えは脱ポルノである」と語ることは無理ではないでしょう。

 しかし、その一方でぼくは、やはりそれは一面的な見方ではないか、とも思ってしまうのです。

 何といっても、いまなお萌え絵を利用したポルノはなくなっておらず、それどころか栄える一方ですし、アニメやライトノベルにもあきらかに性的な要素を含んでいる作品はたくさんあります。

 萌えと性的なものがまったく無関係なら、萌え系のテレビアニメにお約束のように「水着回」やら「温泉回」がインサートされることもないでしょうし、何より各種作品に膨大なポルノ二次創作が描かれることもないはずです。

 もちろん、性的な要素は「萌え」のすべてではないでしょう。あるいは、上記記事で書かれている通り、本質でもないかもしれない。

 ですが、それでいて、性的なものは「萌え」にどうしても付きまとうのです。ぼくは、まずこの現実を受け止めるところから始めたいと思います。

 少し話が飛びますが、最前、Twitterで繰りひろげられたキズナアイを巡る論争では、バーチャルYouTuberであるキズナアイのデザイン、図像が性的なものであるかどうかという点が議論のひとつの焦点となりました。

 キズナアイのデザインを批判する側はそれは紛れもなく性的であると主張し、擁護する側はそうではない、キズナアイをそのように見る視点はむしろそう見る者の内面を示している、と反論したわけです。

 このいずれの意見が正しいのでしょうか。実はぼくは、両方とも納得がいくのですね。両方の要素があると思うし、両方の視点が成り立つと考える。

 言葉にするなら、「キズナアイは性的でありながら性的ではない」ということになるでしょうか。わけがわからないいい方だと思われるかもしれませんが、じっさいそうとしかいいようがない。

 たしかに、キズナアイはどう見ても性的だというほど過激なデザインとはいえないでしょう。しかし、キズナアイを性的な目で見ているのは一部の「物事をやたら性的な意味合いで見ずにはいられない」フェミニストだけである、というのも無理がある話だと思うのです。

 ごくあたりまえのことですが、キズナアイを「性的なまなざし」で見ている人間はオタク側にも多数存在します。これは、たとえば「キズナアイ エロ」で画像検索してみればすぐにわかることです。

 というか、ひとりキズナアイに限らず、オタク文化において一定以上人気が出た女性キャラクターで、性的な二次創作が作られなかったものは、ほぼ存在しないといって良いでしょう。

 輝夜月だろうが綾波レイだろうが一ノ瀬はじめだろうが、あらゆる形でエロティックに消費されているのが現実なのです。繰り返しになりますが、それくらい、オタク文化は「性的なもの」と関係が根深いわけです。

 それなら、結局、フェミニストのいい分が正しく、萌えオタクたちの「萌え」とは性欲の別名であって、その表面の可愛さや美しさは単に性的な要素を隠すための偽装に過ぎないのかといえば、そうではないでしょう。

 萌えには、あきらかにただのポルノ以外の(以上の?)ものがある。「狐の王国」ふうにいうなら、「人間への回帰」という側面は間違いなくあると思います。だからこそ、萌え文化はここまで一般に広がったのです。

 上記記事に書かれている通り、『To Heart』のマルチや、『Kanon』の月宮あゆの物語に感動したオタクたちは、嘘偽りなく薄幸な彼女たちの純真さに心打たれていたはずです。そのピュアな想いをぼくはまったく疑わない。

 しかし、その一方でそういった想いにどうしようもなく性欲が絡みついてきてしまうことも事実であるわけです。これが萌えオタクが抱えるパラドックスです。

 つまり、健気で儚い少女たちの純真さ、無垢さに深く感動していながら、そのイノセントな存在に性欲を感じてしまうということ。彼女たちの儚さを叩き壊してしまうのは、だれあろう、自分自身の欲望に他ならないということ。

 その矛盾を薄々は(あるいははっきりと)認識していながら、それでも少女たちのイノセンスに感動し、涙する。それが萌えオタクだと思います。

 つまり、萌えには「物語」としての側面と「性的対象」としての側面、「脱ポルノ」的なものと「ポルノ」的なものが併存しているわけです。

 この矛盾と葛藤を把握しないことには萌えオタクという人種は理解できないでしょう。したがって、萌えに対して、そんなものしょせん欺瞞だということもできるし、たとえば「レイプファンタジー」といった言葉でそれを批判することもできるわけです。

 ですが、そういったことはだれよりもオタク自身が意識的にしろ無意識的にしろ痛いほど感じていることでもある。そして、萌えオタクが萌え美少女にイノセンスを感じていることもまた、紛れもない事実なのです。

 キズナアイを巡る騒動では、フェミニストが「保守的な性嫌悪」を抱えていることが指摘されました。

 おそらく正しい意見でしょう。しかし、ぼくは実はオタクの側にもある種の性嫌悪があるのではないかと思うのです。

 それは、限りなく自己嫌悪的な感情でしょう。少なくとも男性のオタクたちは、「萌え」というその言葉のなかに含まれている「イノセンスなものへの憧憬」と「性的な欲望」を整合させることができずにここまで来ている人が少なくないように思います。

 このパラドックスを自己解決しないことには規制派のフェミニストに対する反論も一面的なものにならざるを得ないはずです。しかし、具体的にどのようにこの問題を解きほぐしていけば良いのでしょうか。それはこの先の記事で語りたいと思います。

 ご一読ありがとうございました。

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