マンガ

結局、『ドラゴンボール』の面白さは色あせたのか?

【読む前から決めつけないほうがいい。】

 「『ドラゴンボール』を読んだことのない僕が、先輩に反論するために全巻読了した結果」という記事を読みました。

https://liginc.co.jp/429028

 タイトルの通り、いままで鳥山明のマンガ『ドラゴンボール』を読んだことがなかった著者が、『ドラゴンボール』を押しつけてくる先輩に反論するためにあらためて全巻を通読し、感想を述べた記事です。

 これがネットで話題を呼び、というかちょっとした炎上状態になっているため、ぼくも読んでみたわけです。

 ネットでは、この記事はいろいろな批判にされています。たとえば、「そもそも「先輩に反論する」というようなネガティヴな意図で読んだのだから面白いはずがない」という意見は大量に見つかります。

 たしかにその通り。ですが、それはこの記事そのものに対してもいえることなのではないでしょうか?

 最初から「『ドラゴンボールを』を貶してアクセスを稼ごうとする炎上目的の記事」と決めつけてしまっては記事の真価を知ることはできないでしょう。

 ぼくは、個人的にはなかなかに興味深い内容だと考えます。せっかくなのですから、この記事をきっかけに『ドラゴンボール』という作品と、マンガの読み方についてもういちど考えてみることにしたいと思います。

【「面白くない」と述べる自由。】

 まず、初めにいっておくと、どんな偉大な作品であれ、「面白くない」という自由は確保されていてしかるべきです。

 ある作品を「面白くない」という人に向かって、無数の人間が「バカ」、「低能」などとののしるということは望ましくない。

 何を面白いと思い、何を面白くないと思っても個人の勝手であるべきでしょう。

 そもそも「面白い、面白くない」とは「主観」であり、「個人の感想」です。ある個人が何かを面白くないと思ってもそれは作品への批判ではないし、まして侮辱ではありません。

 「全員が同じ作品を面白いと思わなければならない」という思想のほうがよほどおかしいわけです。

 「これは名作なのだからお前も面白いと思わなければならない」という発想は、本文中にも書かれている通り、ハラスメントに他なりません。ほっといてやれよ、とぼくは思います。

【「考察の浅さ」はたしかにある。】

 ただ、本文中の『ドラゴンボール』に対する考察が浅いという見方は成り立つでしょう。

 たしかに浅いといえば浅いとぼくも感じる。『ドラゴンボール』ほどの巨大な作品を通読して、感想が「やや面白くない」だけでは「エディター」としての資質を疑われるのもしかたないかもしれません。

 しかし、逆にいえば、そこまでおかしなことをいっているわけでもないと思うのです。

 あえて要約すると、この記事で挙げられている『ドラゴンボール』を面白く感じられなかった理由は以下の三つです。

・ストーリーが作り込まれていない。いきあたりばったりである。
・世界観が弱い。
・時代が変わり、新鮮さがなくなった。

これらは、たとえ『ドラゴンボール』ファンでも否定しがたいポイントなのではないでしょうか。

【ストーリーの整合性の弱さ】

 まず、『ドラゴンボール』のストーリーが「いきあたりばったり」であることは作者自身が述べていることでもあり、また多くの読者が実感しているところでもあるでしょう。

 『ドラゴンボール』でストーリー的なあら捜しをしようと思ったらいくらでもできると思います。

 そもそもが荒唐無稽な物語であることは間違いありませんが、途中からのいわゆる「戦闘力のインフレ」が展開のサスペンスを削いだ側面があることは間違いないように感じられます。

 じっさい、連載当時でもこの点に関しては賛否両論だったことを憶えています。特に後半のセルや魔人ブウ編まで来ると、「もう地上で戦うのは無理があるのでは?」というレベルに達している印象です。

 また、「世界観」に関する指摘もそれほど的を外してはいないでしょう。これはより正確には「設定が作り込まれていない」ということになると思います。

 現代の『ONE PIECE』や『HUNTER×HUNTER』、あるいは『魔法先生ネギま!』といった作品と比べると、『ドラゴンボール』の設定は練り込まれているとはいいがたいものがあります。

 まあ、ストーリーが「いきあたりばったり」なのだからしかたないのですが。

【欠点を補う圧倒的な魅力】

 もっとも、『ドラゴンボール』がここら辺の欠点を補って余りある魅力をたたえていることもたしかで、その点をこの記事は捉えることに失敗しているとは思います。

 まず、鳥山明の画力について、本文中では「イラストレーターレベル」と書いていますが、実際にはそれは凡庸なイラストレーターを大きく上回るものであることはいうまでもありません。

 およそ「絵」と「デザイン」の才能にかけて、鳥山明という人は『少年ジャンプ』の長い歴史のなかでも傑出したひとりということができるでしょう。

 それから、ストーリーはたしかに「いきあたりばったり」ではありますが、同時に強烈なサスペンスをただよわせていることということもできます。

 「七つ手に入れればどんな願いでも叶う」ドラゴンボールを巡って繰りひろげられる戦闘とかけ引き。それは、実はきわめてサスペンスフルでもあります。

 途中からはそのドラゴンボールがあまりにも万能アイテム化したために、「死んでもどうせ生き返ることができる」といった予測が立つようになり、サスペンスが弱まったきらいはあるものの、たとえばナメック星でのフリーザとの戦いにおけるかけ引きは群像劇として読ませます。

 圧倒的な強者であるフリーザたちに対して、いかにしてクリリンや悟飯がドラゴンボールを手に入れ、あるいは守り抜くか? 孫悟空はいつナメック星にやってくるのか? そういった緊張感はやはり一級のものでしょう。

 おそらく、『ドラゴンボール』は毎週の連載で「次はいったいどうなるのか?」とわくわくしながら読むのがいちばん面白いマンガではあるかもしれません。

 そういう意味で、ぼくは案外、『ドラゴンボール』はよく比較される『ONE PIECE』よりも、『DEATH NOTE』や『HUNTER×HUNTER』に近い作品であるのではないかと感じます。

【時代は変わりつづける。】

 問題は、上記リンクの記事で挙げられている第三の点、「時代背景」が変わったことにより、『ドラゴンボール』のこういった魅力が色あせてしまったのかどうか?ということです。

 ある時代をリアルタイムに体験することによってのみ味わうことができる物語の魅力があることは間違いないでしょう。

 いまのぼくたちは、おそらくギリシャ神話や北欧神話を「ほんとうにあった出来事」として聞いた人々の喜びを知ることができません。

 いや、そこまで持ち出すのは極端としても、たとえば『あしたのジョー』や『宇宙戦艦ヤマト』の斬新さは、いまの視点では理解しがたいものがあるに違いありません。

【『スター・ウォーズ』の衝撃は理解できない。】

 じっさい、1978年生まれのぼくは『スター・ウォーズ』の最初のエピソードがどれほど衝撃的なものだったのか、うまく実感することができません。

 ぼくにとっては『スター・ウォーズ』はわりとよくある設定の、よくある作品というふうにも見えるのです。

 もちろん、それが当時の人たちにとってはとてつもないショックだったということは頭では理解できるのですが、感覚的に体感することはできません。

 まさに上記記事の著者が『ドラゴンボール』の魅力を理解できなかったように。

 これは逆のいい方もできて、ぼくが震えるほど感動した、『ドラゴンクエスト3』や『ファイナルファンタジー6』のインパクトは、いまの若いゲーマーには実感しがたいところでしょう。

 ここら辺の世代的な落差はどうしても生じるものです。

 たとえば『進撃の巨人』の面白さにしても、現代日本の時代背景と密接に関わっている一面は強い。あと30年経ったら、おそらくその面白さを完全に理解することは困難になることでしょう。そういうことはある。

 ただ、いい方を変えるなら、『ドラゴンボール』や『スター・ウォーズ』こそがクラシックであり、オリジナルなのであって、いまの作品はその「二番煎じ」にしか過ぎないといういい方もできるわけです。

 したがって、昔の作品といまの作品のどちらが優れているのか問うことはいかにもむなしい。

 「いまのマンガは昔のマンガを踏まえてより面白くなっている」といったところで、たとえば萩尾望都の『ポーの一族』や『トーマの心臓』の繊細な美しさを再現できる人はいまのマンガ界にはいないでしょうから。

【時代の「壁」を超えて】

 ある作品は、ある時代背景によってのみ生まれ、その時代にのみ楽しめる側面がある。これは紛れもない事実です。

 しかし、その「壁」を超えて作品を楽しむことは不可能ではないし、そのようでありたいものだと思います。

 毎月膨大なエンターテインメントが提供されるいま、昔の作品に手を出すのは楽ではありませんが、たまには古典も味わいたいものです。

 名作といえども色あせる側面はあるかもしれないが、歳月を経たワインのように味わいを増すこともある。可能な限り偏見を払拭して楽しみたい。それがぼくの、あまりにもあたりまえの結論です。

 ぼくたちは結局、楽しむためにこそ、マンガを読むのですから。

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