アニメ

『若おかみは小学生!』微ネタバレありレビュー。

 ネットでやたらに評価が高い(が、興行収入は振るわない)映画『若おかみは小学生!』を観て来ました。

 上映している映画館がちょっと遠いところにあるので行くのが大変だったけれど、結論としては観て良かったです。

 高い世評も納得の秀作。一本のアニメーションとしての出来が抜群に良く、ファミリー映画として、大人も子供も楽しめる作品です。むしろ、子供より大人のほうが「刺さる」かも。

 ただ、個人的には気になる点もなくはなく、文句なしの絶賛とまでは行きませんでした。

 物語は主人公の少女「おっこ」が両親とともに自動車に乗っているとき、事故に遭うところから始まります。その事故で両親は亡くなり、おっこは母がたの祖母に引き取られることに。

 そこで彼女はその祖母がおかみを務める旅館に住み着いた幽霊や鬼と交流しながら、「若おかみ」として少しずつ成長し、また癒やされていくことになるのですが――というお話。

 原作は児童文学らしいのですが、映画は思い切って大人向けとも受け取れるストーリーになっています。

 先ほども書きましたが、このテーマの深さ、重さをほんとうに理解できるのは大人のほうでしょう。ネットで絶賛が相次いだのもむべなるかな。「身近な人の死」の受容ということを中心に据えた素晴らしいアニメーション映画だといえます。

 で、奇しくも、というか、先日完結した『プラネット・ウィズ』と同じく、「赦し」がひとつのテーマになっていると見ることができます。

 これについて書くとどうしてもネタバレになってしまうのですが、終盤でおっこは赦すか、赦さないかというひとつの大きな決断を迫られることになります。

 その先に感動的なクライマックスがあり、多くの人が「泣けた」と口をそろえているわけです。その意見に反論はないのですが、個人的にはいささか不満がなくもない。

 あまりにもおっこが「良い子」すぎるのではないか、と思えてならないのです。

 おっこが下さなければならない決断はほんとうに重いものです。「赦す」ということは途方もなくむずかしい行為であるはず。それなのに、彼女はほとんど負の感情を見せることなく、その対処を行ってしまう。

 そこに、ぼくは少々の違和を感じる。あえてきびしい言葉を使うなら、「きれいごとなのではないか」ということになるでしょう。

 もちろん、おっこが下した決断は素晴らしいものではあるでしょう。人は赦すことができないために苦しみ、悩む。そうだとすれば、おっこは赦すことによって解放されたのかもしれません。

 しかし、それにしてもおっこはあまりに「良い子」でありすぎるのではないか、とぼくなどは思ってしまう。ほとんど聖少女という印象を受けてしまうくらい。

 とはいえ、じっさいに彼女がナウシカやジャンヌ・ダルクのような聖少女なのかというと、そうではないと思うのです。

 おっこはあくまでわりあいに平凡な女の子で、そのため、なぜ、彼女がそういう決断を下せたのか、何が彼女のバックボーンになっているのか、そこがわからない不満が残る。

 いや、おっこはとにかく良い子だから人を赦せたのだ、としても良いでしょう。しかし、まわりの人間までほとんど負の感情をまったく見せないのは、一本の映画としてバランスが欠けているといえるのではないか。

 この描写だと、まるで「赦すこと」が唯一の正しいやり方で、人はそうであるべきだ、と主張しているように見えてしまう。

 現実には人を赦すことができずにそれで苦しんでいる人も大勢いるはずなのに。あるいはぼく自身が「赦せない」人間だからそう思うのかもしれませんが……。

 比較するのもどうかとは思いますが、『プラネット・ウィズ』にはそうした不満はほとんどありません。

 最終的には「赦し」がテーマになっているとはいえ、主人公が散々に怒って、恨んで、憎んでいる描写がきちんとあって、その上でその怒りや恨みや憎しみを乗り越えていくという展開になっているからだと思います。

 人間は「怒りと憎しみの種族」であるという前提があって初めてそれが「愛の種族」へと進化していくという展開が感動を呼ぶのですね。

 さらにいえば、子供が怒りや憎しみに捕らわれているとき、まわりの大人が徹底して大人として振る舞っているということも大きい。

 『プラネット・ウィズ』の面白さは、力の強さとはべつに、大人は大人であり、子供は子供なのだということがしっかり描かれているところにあったと考えるのです。

 対して、『若おかみは小学生!』の大人たちは、子供に少し甘え過ぎなのではないかとぼくなどには思えます。

 この話では、おっこが聖少女よろしくすべてをひき受けて受容することによって問題が解決する構造になっている。ぼくは、それで良いのか、と思ってしまうのです。

 と、いろいろ書きましたが、今年を代表するに足るアニメーション映画の傑作であることは間違いありません。公開はすぐに終わりそうなので、ご興味のある方はぜひ劇場へ足をお運びください。それだけの価値はある映画だと思いますよ。

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