小説

石田衣良『池袋ウエストゲートパーク 七つの試練』に時代を見る。

石田衣良『池袋ウエストゲートパーク(14) 七つの試練』を読み上げました。

このシリーズも相当に長くなったけれど、内容はあいかわらず軽快です。

1巻につき4本の中短編から構成される内容もいつもの通りで、これで56本の作品がそろったことになりますね。

これだけの数の中短編のシリーズをさらりと書いてしまうあたり、石田衣良、やはり尋常な才能じゃない。

なかなか短編が出なくなった出版不況のこのご時世で、この人は例外的なくらいたくさんの短編集を出している作家です。

連作短編であるこのIWGPシリーズを含めると、その数は実に20冊以上。

すべてが傑作というわけにはいかないとは思いますが、それにしてもハイクオリティの短編を数多く出しているということは傑出した才能の証明に他なりません。

いまの時代、一般的には短編集はあまり売れないのかもしれないけれど、でも、文芸の神髄はやはり短編にあるんですよね。

作家の技巧が最もわかりやすく伝わってくるのも短編ですし、何といっても切れ味鋭い短編を読む味わいはほかに代えがたいものがあります。

もっといろいろな作家がたくさん短編を書いてくれる世の中になると良いのですが、まあ、それはむずかしいのでしょうね。

IWGPに話を戻すと、このシリーズ、主人公であるマコトの加齢はほぼ止まっていますが(途中でわずかに歳を取ります)、時代はどんどん変化していきます。

シリーズが始まった頃は2000年代の初頭だったのですが、いまはそれからもう十数年が過ぎ去っているわけで、矛盾があるといえばあるのだけれど、まあ、それはいわないのがお約束。

しだいにきびしさを増してゆく日本の社会状況が、マコトの軽快でいてユーモラスな一人称によって描かれるあたりが、このシリーズの魅力であり、人気の秘密でしょう。

とにかくマコトの一人称文体は石田衣良の才能があふれまくり、ちょっとほかの人には真似ができないスタイルだと思います。

ストリートディテクティヴはほかにもいるにしろ、これほどの個性と魅力を併せ持ったキャラクターはめったにあるものではないでしょう。真島マコトというキャラクターは、ぼくの読書歴のなかでも指折りの魅力を感じる存在です。

で、今回も物語はいつも通りマコトが池袋の街で起こる難事件を解決してゆく展開で、マンネリといえばマンネリなのだけれど、スタイリッシュな文章と人情の組み合わせが読ませます。

このシリーズ、最初のあたりはある程度のリアリティがあったと思うのですが、最近はほとんどライトノベル的なキャラクター小説になっている印象です。

はっきりいって事件解決までのプロセスは予定調和で、スリルとサスペンスに富んでいるとはいいがたいのだけれど、でも、やっぱり新刊が出るといそいそと買ってしまうくらい面白い。

初期とはまた一風違った面白さがある。それはやはり素晴らしいことなんですよね。

池袋をさわがす芸能人のスキャンダルや、「七つの試練」のストーリーは、あきらかに最近起こった事件から題材をもらっていて、そこら辺、あざといといえばあざといのかもしれませんが、時代をキャッチする感性のたしかさを感じさせます。

これ、リアルタイムに題材を物語に落とし込んで処理していかなければあっというまにネタは古くなってしまうわけで、一定以上のスピードが求められる作業なのですね。

あっさりやっているから特段に感じないものの、やはりそれは凄いことなのだと思います。

最近、ぼくはポッドキャストで石田衣良の人生相談なども聞いているのですが、当意即妙の受け答えには感心させられます。

あと、決して説教くさいことをいわず、現実的な回答を行っていくあたりは、さすが、マコトやキング・タカシの生みの親という気がしますね。頭の回転が速いよなあ。

それから、めったにいないくらいバランス感覚が優れている印象。

とにかく、このバランス感覚という一点に関して、石田衣良は日本の作家のなかでも傑出しているかもしれません。

まあ、パーフェクトではないかもしれませんが、何気にある種の天才的な作家だと思います。

どのような作品を書いてもどこか淡泊で強烈な情念を感じさせないところは、技量の問題というより、もう作者の性格から来るものなのでしょう。

『北斗』のような強烈な傑作も書いてはいるけれど、それでも、やはりどことなく淡い印象を受けますからね。

伊坂幸太郎などと並んでいまの日本のエンターテインメントを代表する作家であり、IWGPシリーズではハードボイルドに新風を吹き込んだ才能ではあるものの、マッチョなところがなく、どこまでも柔らかい印象なのは、もう天性のものとしかいいようがないように思います。

作家にとって最大の武器になるのは、つまりは「自分自身であること」なのですね。それを人は個性というのだろうけれど。

とにかく、いつも変わらぬシリーズ第14弾でした。

これからこのシリーズを読もうと思われる方は適当に一冊、手に取ってみてください。

どこを切り取っても、一定以上のクオリティを保った作品と、マコトの洒脱な軽口があなたを待っています。

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