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田村由美、待望の新シリーズ『ミステリと言う勿れ』が傑作!

田村由美『ミステリと言う勿れ』第1巻と第2巻を読みました。

田村由美といえば、『BASARA』、『7SEEDS』と、合わせて60巻以上にもなる大長編をみごと完結させたことで知られる天性の物語作家ですが、この『ミステリと言う勿れ』では、趣向を変えて「ミステリ」に挑戦しています。

これがね、実に素晴らしい。最近読んだマンガのなかにはもちろん他にも面白いものは色々あるけれど、作劇の巧みさという意味では、ちょっと一段、レベルが違う感じがしてしまいます。

ぼくはやっぱりこの手の非日常的なドラマが好きですね。他愛ない日常ものもそれはそれで好きなのだけれど、そればかりだといかにも物足りない印象です。

ただ、日常ものは探せばそれなりの佳作が見つかるのに対し、非日常のドラマティックな展開を描いた作品は、なかなかマスターピースを見つけ出すことはむずかしい感じ。

これは、現代が日常ものに傾いた時代であるということもあるのでしょう。でも、それでもぼくはやはりドラマティックなものを求めずにはいられない。あたりまえの生活が崩れるところから始まる物語のキラメキ。そういうものに魅せられているわけです。

『ミステリと言う勿れ』は、ひとりの青年が殺人の疑惑をかけられるところから始まります。警察による理不尽なまでに過酷な取り調べのなか、しかし、かれは警官たちの些細な行動や言動を取り上げて、その裏にあるものを推理してみせます。

その洞察力のたしかさに驚く警官たち。ですが、その一方でかれが犯人であることを示す証拠は次々と積み重なっていきます。

いったいかれはほんとうに人を殺したのか? あるいは、かれが犯人でないとすれば真犯人はどこにいるのか? スマートな解決が待っています。

そしてまた、この事件が終わったあと、連鎖的に次の事件、さらに次の事件へとストーリーは続いていきます。その手腕のたしかさよ。

もちろん、巧い作家であることは知っていたけれど、これほど秀抜な作品を立て続けに見せられると、やはり驚かされます。超一流の物語作家としかいいようがありません。

物語作家の条件とは、構成力があることです。構成力とは、つまり、情報整理の能力。ある物語の情報を、どのように並べ、見せ、読者を魅了するかという力量のことですね。

そして、作家の構成力を示すひとつのバロメーターとして、優れた短編を書けることが挙げられます。巧みな短編を書くことができる作家は、高い構成力を持っているといえるわけです。

短編においては、短いなかに的確に情報を詰め込むことを求められますから、構成力がない作家はまともな短編を書くことができない。

しかし、この構成力はどうも加齢とともに衰えていく傾向があるものらしいのですね。つまり、物語作家には「旬」がある。その最盛期を過ぎ去ると、なかなか優れた物語を描くことはできなくなるのです。

『ファイブスター物語』の永野護は、50歳を過ぎると多くの作家の構成力は衰えてくるという見方を示していました。じっさい、そういう側面はあると思います。

だいたい、巨匠といわれる人は、晩年になればなるほど、超大作に挑むことになる。歳を取ってから短編をたくさん書くようになったという人はあまり思いあたらない。傑作短編は、やはり若い頃にしか書けないものだと思うのです。

大長編は一見すると花やかで、構成力の冴えを感じさせるように思われますが、実際には短編に比べればいくらかの「ゆるさ」を許容する側面があります。短くまとめることのほうがむずかしいのです。

そういう意味では、短編こそは物語作家の実力を正確に測れるステージだということができるでしょう。

話を田村由美に戻しますと、この人ももう相当の年齢のベテランであるはずなのですが、いや、衰えませんね。むしろいっそう冴えている気すらします。

これだけたくさんの作品を描いてきた漫画家が、まだこのような秀逸な連載短編を描けるということはひとつの脅威です。普通は、できないよね……。

なかなか、「続きが気になってしょうがない」というマンガも少なくなってきましたが、この『ミステリと言う勿れ』はまさにそういう作品のひとつです。

第3巻が待ち遠しくてしかたない。名探偵であり、主人公でもある青年の過去がちらつくあたりも気にかかります。

異様なまでの推理力を示してまわりを驚かせるかれの人生には、どのような出来事があったのか? そして、また、この物語の行く手には何が待ち受けているのか?

いま、まさに注目の一作です。ミステリマンガがお好きな方はもちろん、面白い「物語」を見たいという方にも花丸付きのオススメができます。

かつて、『BASARA』に熱中した人、『7SEEDS』が長すぎて疲れてしまった人も、ぜひ、戻っておいで。スピーディーでスリリングなミステリがここにある。

まだこの作品は始まったばかりなので、今後、さらに面白くなっていくことでしょう。ほんとうに素晴らしいと思います。はい。

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