マンガ

仲谷鳰『やがて君になる』に、百合が百合を超える可能性を見る。

『電撃大王』連載の百合マンガ『やがて君になる』待望の第6巻です。

この種のマンガは好きで色々と読んでいるし、面白いとも思っているのだけれど、一方で、ジャンルファンが喜ぶ作品はたくさんあっても、それを超えて広く響くだけのものを秘めた作品となると、そうそうない気もするのですよね。

志村貴子さんの『青い花』とか、ごく少数だけが、そういうふうに形容してもいいクオリティを備えているように思われる。

もちろん、もともとがジャンルファンに向けた作品なのだから、そういう狭いファンが喜べばそれで良いという考え方もあるでしょう。

まあ、それはそうなのかもしれない。でも、ぼくはやっぱりそれでは物足りないのです。

読むからには「傑作」を読みたいし、描く人たちにもそれを志向してほしい。

ただイチャイチャラブラブ、キャッキャウフフだけではいかにも弱いでしょう。

そもそも、百合は、あるいはボーイズ・ラブもそうかもしれないけれど、あるカップリングの「関係性」に根ざした面白さをなかなか超えることができない。

あるキャラクター同士の関係性がいかに進展するか、あるいはしないかというところに視点がフォーカスしていて、そこから外れることがないのですね。

それはそういうものなのかもしれないけれど、いわゆる「物語」を展開するためには、もっと広い、鳥瞰的ともいうべき視点が必要になる。

そういう視点をもった百合作品はあまりないのが実際のところでしょう。

もしかしたら、受け手のほうもただカップリングが攻めだ、受けだというだけのことで満足してしまえるのかもしれません。ぼくはそれでは物足りないのですが……。

そこで、この『やがて君になる』ですよ。

この作品は、百合ものの王道を行くストーリーではありますが、世界が主人公たちの関係性に閉じていません。

ここには、紛れもなく「物語」がある。ぼくとしては、それが嬉しいところですね。

かつての少女漫画がもっていた品位と芸術性をなぞるかのような作品です。

ひとことでいって、素晴らしいとしかいいようがありません。

まあ、女の子同士の恋愛ものには違いないので、その恋愛の部分だけ描いていれば良いという人のほうが、あるいは多数派なのかもしれない。

でも、百合だからといって、ただ閉ざされた楽園を描いていればいい、若い、可愛らしい女の子だけの世界を綴っていればいいというものではないと、ぼくは思います。

いや、そういう百合もあって良いけれど、全体の多様性を考えるなら、もっといろいろなバリエーションが欲しいと思うのですよね。

何か、しんじつ人の心を震わせるだけの作品に出逢いたい。ぼくはそう願ってやみません。

極論するなら、ぼくは百合オタではないかもしれない。百合であるか、どうか、そこはどうでも良いのです。

女性同士の関係を描いた作品が好きなことはたしかだけれど、べつだん、それが百合と呼ばれる領域に留まっているかはぼくにとっては問題ではない。

ただ、面白い、美しい作品を読みたいと思っているだけだから。

そういう意味では、心から百合が好きで、ピュアな百合しか読みたいと思っていない人たちとは違うかもしれませんね。

ぼくはそれが十分に面白ければ、百合だろうとBLだろうとヘテロなカップリングの恋愛ものだろうと、頓着するつもりはない。

ただ、その上で女性同士の関係には魅力を感じることはたしかだけれど……。

まあ、好きなんですけれどね、百合。正直、現状の百合作品のクオリティには満足していません。

いや、ぼくにしてもただ女の子同士がいちゃいちゃしているのを眺めるだけでそこそこ楽しめることは事実なんですよ。

それだけでそれなりに楽しいし、面白い。快楽がある。

だけれど、そこに留まっているようでは、進歩がないとも思う。マンネリだし、多様性に欠ける。そういう気がしてならない。

百合というジャンルを超えて普遍的な魅力を放つ百合作品を読みたいのですよね。

かなり贅沢なことをいっているという自覚はあるのですが、少なくとも描き手にはそういう作品を目ざしてほしい。それが「志が高い」ということではないでしょうか。

もちろん、ただ同人誌で趣味で描いているだけの人にそこまでのことは望まないけれど、卑しくもプロフェッショナルを名のる描き手には、それだけの作品を描いてほしいと思うのです。

ただ閉鎖的な関係性の魅力を「尊い」といって崇めたてるのではなく、それをも含んだ、さらに広大な世界を鳥瞰するような百合作品がもっとあっても良いのではないか。ぼくはそう思う。

あるいは、それは百合ジャンルファンが喜ぶタイプの作品ではないかもしれないけれど、でも、そういう作品こそが「傑作」と呼ばれる可能性を秘めているのではないかと。

まあ、何を傑作とし、何を駄作とするかは人によるには違いありませんが、不肖、ぼくはそのように考えているということです。

面白い百合作品を読みたいですね。はい。

で、『やがて君になる』、この作品はまさに傑作と呼ばれるだけの可能性を秘めていると思います。オススメです。

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