小説

ライトノベルの表紙を気持ち悪いと思うことは自由だが……。

 何かTwitterでライトノベルの表紙が気持ち悪い、エロい、ひどい、といういつもの議論が巻き起こっていたようですね。

 ぼくの視点からは全貌は見えないのだけれど、とりあえず私見を述べてみましょう。

 まず、ぼくはラノベの表紙が特に現在、過激化しているとは思っていません。これもすでに取り上げている人がいるけれど、いまから30年近く前の80年代の時点からたとえばこういう表紙はあるわけですよ。

聖刻の書〈3〉裏切りの首飾り (角川文庫―スニーカー文庫)

 なので、特にいまになって過激化したとは思わない。

 いやー、なつかしいなあ、『魔群惑星』。美少女表紙のライトノベルとしては元祖に近いポジションにある作品なのではないかと思うのだけれど、それは措いておくとして、この頃のライトノベルは、内容的にも直接的な性描写が入っているものが少なからずありました。

 まだライトノベルという概念が固まっていなくて、大人向けの小説として判断されていたところがあります。

 『異次元騎士カズマ』とか、『魔獣戦士ルナ・ヴァルガー』とか、内容的には最近のラノベどころではない過激さ。

 ぼく、いまでも憶えているのだけれど、テーブルトークRPGのルールブックである『ルナ・ヴァルガーRPG』には「床上手技能」というスキルがあって、それを取得していると情報が取得しやすくなるんですね(笑)。

 あと、小説の内容的にいうと、純粋なポルノを除いたライトノベルの歴史で最も過激な内容なのは『デビル17』あたりではないかと思います。これもいまから10年以上前の作品ですね。

 これは、ある意味、懐古的に平井和正的な性と暴力の世界を描いた作品なのですが、まあ、この路線はウケませんでしたね。

 ライトノベル読者は本質的にもっと世代が上のオヤジ読者のようなバイオレンス描写を求めていないのだと思う。なろう小説はちょっとまたべつとして。

 それから、70年代初頭にはこのような表紙があります。

大宇宙の魔女―ノースウェスト・スミス (ハヤカワ文庫 SF 36)

 イラストを描いているのは男性の松本零士さんですが、小説の作者は女性です。キャサリン・L・ムーア。伝説的な女性SF作家のさきかげですね。

 当時、女性が書いたものは受け入れられづらいということでC・L・ムーア名義で作品を書いていたことが知られています。

 で、まあ、そういうわけで、イラスト的にも内容的にも特に最近になってラノベが過激化しているわけではないと思うんですよ。

 一部の肌色が多い表紙だけを取り上げればさもそのような表紙ばかりになっているように感じられるけれど、そうじゃない表紙のほうが量的には多いわけです。

 そもそも、先ほどもいったように、現在のラノベ業界ではエロは特に求められていない印象です。より正確には「ちょっとエッチ」くらいで歯止めがかかるんですね。

 そのリミットを超えた作品が大ヒットしているという話は、寡聞にしてぼくは知らない。

 それがなぜなのかということは興味深いところですが、ともかく、実際にはラノベはこのジャンルについてまったく知らない人が妄想するほどにはエロばかりの世界にはなっていないと感じます。

 それにしても、表現規制の議論はどんどんエスカレーションしていますね。過激な性描写をしてはいけないということならまだわかるのだけれど、もう表紙で肌を露出することそのものがいけないというところまで来ているわけですよね。

 いったいこのまま進んだらどこまで行くのか、ある種、楽しみなような気すらしてしまいます。まあ、良いのだけれど。ぼくも人間ですから、自分が嫌いなものを排除したいという気持ちはわかります。

 でも、排除されるほうの立場としては、そうそうおとなしく排除されるわけにもいきませんからね。論争が巻き起こることは必然ではあるのでしょう。

 いや、排除しようとする側は、これは女性の権利を守るためなのだ、性的消費や搾取が問題なのだというのだろうけれど、いま、作家にもイラストレーターにも多数の女性がいるわけですからね。

 べつだん、すべての女性が一致団結してラノベを排除しようとしているわけでもないでしょう。

 というか、ラノベの社会からの排除が完了したら、次はボーイズ・ラブやティーンズ・ラブであることは目に見えているわけで、やっぱり女性の権利という意味でもこれは賛成しちゃいけない話だよな、と思うのです。

 ラノベの表紙を見て気持ち悪いと思うことは、だれかが自称フェミニストのツイートを見て同じように思うことが自由であるのと同じくらいには自由だけれど、自分が気持ち悪いと思うものを世界からなくそうとしてはいけないのです。

 もちろん、表現を規制しようとする人たちは「快不快の問題ではない。もっと深刻で重大な話なのだ」と主張するでしょうが。

 まあ、じっさい、ネットではこの手の話は限りなく低次元なところから議論が進まないので、見物するのもいいかげん飽きてきた印象ですね。やりたい人だけでいつまでもやっていれば良いのではないかと。ぼくはアニメを見たりラノベを読むほうで忙しい。

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