小説

ラブコメラノベ最前線、『14歳とイラストレーター』を読む。

 うに。一段と寒さもきびしくなりつつあるきょうこの頃、皆さま、いかがお過ごしでしょうか。ぼくはストーブの前から動けません。人類の肉体は冷気に耐えるよう作られていないのだ。

 さて、むらさきゆきや『14歳とイラストレーター』という小説を読みました。これは、ある萌え系イラストレーターの青年と、ちょっとしたことからかれの生活の世話を焼くことになった14歳の少女を中心に、ライトノベル界隈の群像を描いた小説です。

 いままでこの種の業界ものは、ライトノベル作家を主人公にしたものが中心でしたが、この作品はイラストレーターを主人公に持ってきたところが新機軸。

 まあ、そうはいっても似たような内容だと思って読み始めたのですが、これが面白い。実に面白いのです。いま、最も先を楽しみにしているライトノベルになってしまいました。

 何がそれほど面白のかというと、うーん、何だろうな。実はこの作品、それほど魅力的には思えないのです。たとえば『妹さえいればいい。』や『エロマンガ先生』などと比べると、ライトノベルとしては平凡な出来のようにも思える。

 というのも、あまり個性的なキャラクターが出てこないのですね。どのキャラクターも、破天荒といえば破天荒だけれど、ほんとうの意味で現実離れしたキャラクターではない。ある意味ではどこかにいてもおかしくない、そんな造形になっています。

 そういう意味では、たぶん、そこまで独創的な作品ではないといえるかもしれない。ただ、おそらくそここそがこの作品の魅力なのだとも思う。あまり現実離れしていない、どこかにいそうな面々が楽しそうにオタク生活を繰りひろげているところが面白いのです。

 それは『妹さえいればいい。』でも同じなのですが、この作品は『妹さえいればいい。』よりもっと踏み込んでいる印象がある。微妙な差なのですが、たしかに何かが新しいように思える。何でしょうね?

 数年前、『妹さえいればいい。』が出版されたとき、ぼくはこれこそがライトノベルの最先端だと直感し、絶賛しました。じっさい、あの時点ではその意見は正しかったと思います。

 しかし、いまとなっては、その『妹さえいればいい。』ですらちょっと古い印象になっている。そのくらい、ライトノベルの、というよりオタク界隈の進歩のスピードは速いのです。

 で、『14歳とイラストレーター』です。この作品、一見すると新しいところはどこにもないのですが、じっさい面白いし、また売れているようでもある。どこにそれほどの魅力があるのか?

 ぼくは、この作品、「業界もの」というより「ライトオタクもの」と解釈するべきなのではないかと思うのですね。つまり、『ヲタクに恋は難しい』とか『ネト充のススメ』といった作品のグループと見るのが正しいのではないかと。

 もちろん、業界ものとしての要素も残っているし、そもそも業界ものとライトオタクものの区分ははっきりしないのですが、ぼくの直感が何となく「こっち側だよなあ」とゆっている。

 ライトオタクという概念についてくわしく語っていると長くなるので飛ばしますが、ようするにオタク的な文化が特殊なものではなくなった時代における新しい世代のオタクのことです。

 かつて、ラブコメライトノベルは「リア充」を敵視して「ぼっち」同士で仲良くやるという構造のものが多かったのですが、ライトオタクものは必ずしもリア充ヘイトの構造を持ちません。

 持っているとしても、ほんの形ばかりです。かつては対立概念であったはずの「リア充」と「オタク」が合流し、一体化してしまった概念こそが「ライトオタク」であるともいえるでしょう。

 もはやリア充は敵ならず。というか、自分自身が最高のリア充であったりするわけです。ここにはもうルサンチマンはありません。ただひたすらハッピーな趣味生活があるだけです。

 そう――そうですね。エウレカ! この「形ばかりのルサンチマン」すら見あたらないところが、『14歳とイラストレーター』の決定的な新しさかもしれません。

 いままでは、実質的にルサンチマンがなくなっていたとしても、一応は「リア充ばくはつしろー」などと呟いている作品が多かった。『妹さえいればいい。』ですらそれは例外ではなかった。

 しかし、『14歳とイラストレーター』ではもはやそのポーズすらなくなっている。これは凄いことなんじゃないかと思うし、ほんとうに新しいとも思う。だから面白い。そういうことなんじゃないかな。

 ということはいよいよこの先、オタク文化はリア充文化化していくのだろうし、それにつれて面白い作品も出てくるのだと思います。うーん、楽しみだぜ。

 いや、ぼく自身はまったくリア充ではない、虫けらの身に過ぎないのですけれど。でも、趣味があって友達がいれば、気分はリア充だよね!とも思うわけで、まあ、それなりにハッピーな日々を送っています。

 何といっても会社にも通っていないから24時間が自由だしな。毎日が夏休み。ははははは。

 『14歳とイラストレーター』、オススメです。ラブコメラノベの最先端を、チェックだ!

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