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城平京&片瀬茶柴『虚構推理』に傑作の予感。

 城平京&片瀬茶柴『虚構推理』の最新刊を読みました。

 「恋愛×伝奇×推理」という謳い文句の通り、ちょっと類例がないであろうジャンルの一作です。

 主人公はあたりまえの「人間」の枠から半歩飛び出てしまったふたり、妖怪たちからすら怖れられる不老不死の化け物となった青年と、妖怪たちに相談役として知恵を貸している少女。

 人にして人に非ざる存在ともいうべきかれらは、妖怪たちを震え上がらせる「想像力の怪物」鋼人七瀬に立ち向かいます。

 想像力の怪物とは、伝説や噂話が無数の人にほんとうだと信じられることによって実在するまでに至ってしまった存在。

 妖怪に似て妖怪をはるかにしのぐ力を持つ本物のモンスターです。

 人々の想像力によって成り立っているため、首を切り落とされてもなお死ぬことがないこの怪物をどうやって倒せばいいのか? 青年と少女、そして青年の元恋人は策を練ります。

 こう書くといかにも王道の伝奇もののようですが、タイトルからわかる通り、この作品は実はミステリでもあります。

 まあ、最近は超常現象とミステリを掛け合わせた作品も少なくなくなりましたが、それにしてもこの作品の独創性は飛び抜けている。

 さまざまな妖怪変化が出て来る舞台背景もさることながら、なんといっても「虚構推理」というアイディアが素晴らしい。

 原作小説が第12回本格ミステリ大賞受賞を受賞していることも納得できます。

 虚構推理とは何か? その内容はこの第3巻においてようやく語られます。

 ひとの想像力から生まれ、噂話が信じられる限り不死身の「想像力の怪物」鋼人七瀬を倒すため、少女が考えた策略、それが「いま流れている噂よりも合理的ででしかもより魅力的な話を流すこと」。

 その新しい話が広く信じられるようになれば、必然的に鋼人七瀬は力を失い、消え去ってしまうことだろう、というのです。

 もちろん、それは事実である必要はない。まったくの嘘八百であってかまわない。

 というか、実はこの作品の場合、真実はあっさりあきらかになってしまうのです。

 なんと推理を繰り広げるまでもなく超常的な能力を使ってあっさり「ほんとうに起きたこと」は解き明かされてしまう。

 しかし、それでは話が面白くない、ひとの噂として広がらない、というわけで人々を納得させるだけの合理性と、古い噂にとって代わるだけの魅力を兼ね備えた新説を作り出さなければならないというだけのこと。

 この難題を成し遂げるため、三人は巧みに論理を組み上げようと試みる。真実などひとかけらもない、架空のロジック、まさに「虚構の推理」を。

 はたして三人が組み上げる推理は鋼人七瀬をみごと打ち破ることができるのか――? 

 まあ、そこは推理もののお約束、最後には巧みな推理が展開し(この作品の場合、すべて虚構に過ぎないわけですが)、七瀬は打ち倒されることになるはずだけれど、それまでにいったいどんな展開が待っているのか、わくわくです。

 「真実をあてる必要はない。それが合理的な解決であれば嘘であってもかまわない」という考え方そのものは、実はミステリの歴史上、それほどめずらしくはないものです。

 その場合、「合理的になるよう論理を積み上げてみたら、なんと驚いたことにそれは真実だった」というような結末が付けられたりします。

 この種のミステリで最も有名なのはハリイ・ケルメマンの名作短編「9マイルは遠すぎる」でしょう。

 「9マイルは遠すぎる」という、たまたま耳にしたひと言から一軒の殺人事件を浮かび上がらせてしまうほとんど法螺話に近いような小説ですが、ミステリの世界ではマスターピースとして知られています。

 この作品に影響を受けたとおぼしい西澤保彦の『麦酒の家の冒険』なども思い出されるところですね。

 そういえばタック&タカチシリーズはいまどうなっているんだろうな。ぼく、まだ続きを待っているんだけれど……。

 まあいいや。そういうわけで、原作者もあとがきで語っている通り、「合理的なら嘘でもいい」というアイディア自体はそこまで独創的なものではない。

 ただ、この作品の場合、「合理的」なだけだけではなく、「魅力的」でもなければならないというところでハードルが一段上がっている。

 この条件を成し遂げることは至難とも思われますが、ほんとうに作者はそれを考え出すことができたのでしょうか? 期待大ですね。

 原作者の城平京さんは不滅の傑作『ヴァンパイア十字界』の原作も手掛けている人です。

 非常に才能があるクリエイターだと思うのですが、世間的な知名度はもうひとつというところのようです。

 それは、おそらくかれの手掛ける作品がひとつのジャンルに入り切らない、クロスオーヴァー的な物語であることと無関係ではないでしょう。

 とにかくひと言でどこが面白いのか説明しづらい、妖怪伝奇ものとも推理ものともつかない異形の作品が多い。

 『ヴァンパイア十字界』や『絶園のテンペスト』にしても、スーパーナチュラルな設定ながら、その真の魅力はプロットそのものにあるわけです。

 すべてが巧みに計算されたプロットの妙は城平ミステリの魅力ですが、さて、この作品でもそれがうまく炸裂するか、どうか、実に見ものという気がします。

 この巻ではようやく「ゲームのルール」が決められただけで、これからどうやって推理を繰り広げるものかは五里霧中というところですが、続刊はとても気になります。

 この作品が首尾よく巧みな解決を見せれば、多重解決ものの新しい境地を切り開いているということになるでしょう。

 しかし、この巻の最後では、起こってはならない事件が起き、「合理的」でかつ「魅力的」な推理を成し遂げるという条件はさらにさらにむずかしくなります。

 自分で自分の首を絞めてみせる作者の意気やよし。

 ああ、早くも次の巻が待ち遠しい。

 傑作の予感もただよう中盤の第3巻なのでした。

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