小説

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』とハーレムラブコメの構造。

 今月ももう終わりですね。

 つい最近、正月を迎えたばかりという気がしますが、いったいそのあいだ何があったのでしょうか。

 少なくともぼくは何もしていない気がします。どうなっているんだ。

 ところで、先日、人間ドックを受けたのですが、予想通りコレステロールが高すぎて食事を改善しないといけない模様です。

 さて、そうすると何を楽しみにしたらいいのか――本を読むのか、映画を見るのか、いずれにしろ趣味を充実させていきたいですね。寝ているだけでも時間は過ぎていくので。

 そういうわけで、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』を読み返したりしていました。

 ここで新作に挑めないあたりがいまのぼくの現状を示している気もしますが、まあ、読まないよりは読んだほうがいいかと。

 『俺妹』はいわずと知れたラブコメライトノベルの名作です。

 いろいろな意味で画期的な作品だったのですが、結末だけ賛否両論が分かれています。

 Amazonを見ると一目瞭然で、最終巻だけ評価が割れているのですね。

 どうしてこういうことになったかというとシンプルな話で、主人公が実の妹との恋愛を選んだ挙句、彼女とも別れて、だれとも結ばれないという結末になっているからです。

 ライトノベルの快楽原則からしてまったく気持ちよくない終わり方であるわけで、それは文句も出てきて当然というところでしょう。

 その原則に従うなら、せめてだれかと結ばれるエンディングにするべきだった。

 あと、近親相姦ネタは一部に嫌われるから、そこらへんも匂わせるくらいで終わらせるべきだった。

 それにもかかわらず、作者はなぜこのような結末を選んだのでしょうか。

 それは結局、作品に対する誠実さを優先したということに尽きると思います。

 ごまかそうと思えばごまかせたと思うのですよ。もっと文句が出ない穏便な解決法はいくらでもあったはず。

 しかし、それは作品のテーマからして誠実とはいいがたい結末であったのだろうと思うのですね。

 少なくとも「俺の妹」であるところの桐野の恋心をごまかして終わってしまうことは、穏便ではあっても美しくないエンディングになってしまうものと思われます。

 だから、どこまでもストレートに兄と妹のラブストーリーを描き、そしてそれすらも破綻させた。

 作品の趣旨からすれば実に正しい終わり方だと思いますが、どうしようもなく痛い、気持ちよくない結末であることも疑えません。

 ぼくは、この結末を選んだ作者に拍手を送りたいと思います。

 『俺妹』に限らず、ハーレムラブコメと呼ばれるジャンルはどこかで無理と欺瞞を抱え込むことになります。

 いくら絢爛たるハーレムを作り出そうと、最終的に選べるのはひとりだけなのだから、そのハーレムの構成員が多ければ多いほど、無理が発生していくわけです。

 いや、最後にひとりだけを選んでほかのヒロインとは別れを告げるというのなら、とりあえずそこに矛盾はないことになりますが、それではほかのヒロインたちのファンは怒ってしまう。

 これが、ハーレムラブコメにどうしようもなく付きまとうパラドックスであるわけです。

 この矛盾に正面から挑むと、『俺妹』のように物語としての気持ちよさを犠牲にした結末になってしまいます。

 『僕は友達が少ない』もそうですね。あれも、主人公がだれとも結ばれないというバッドエンドめいた結末を持ってきて、非難の的になっています。

 結局のところ、読者はライトノベルにご都合主義的な気持ちよさを求めているわけだから、そこを裏切ってしまうと、批判は大きなものになります。

 ただ、だからといってハーレムをそのまま維持して終わるようなご都合主義そのものの結末を持ってくると、モラルの面でもやもやしてしまうわけです。それでいいのか、と。

 いや、ハーレムが悪いというわけではないのだけれど、その場合、ハーレムを維持できるほどの器量を持った主人公じゃないと不自然になってしまうのですね。

 そういうわけで、ハーレムラブコメは構造的な問題点を抱えているといっていいでしょう。

 誠実であろうとすればするほど、どこかに欺瞞が生まれてしまう。

 どうしたって綺麗に気持ちよく終わることができない構図なのです。

 いちばん無難なのはタイトルヒロインと結ばれて終わることですが、最近はその法則も破られてしまいましたし……。

 いまだ、ハーレムラブコメをどう終わらせることが最善なのか、その答えは出ていないといっていいでしょう。

 つまりはハーレムラブコメを終わらせようとする作家は、各人でその答えを出していかなければならないということです。

 たとえば『神のみぞ知るセカイ』の解答は見事でした。

 『冴えない彼女の育てかた』はいったいどうなるのでしょう。

 そして『ニセコイ』は……。

 こういう視点でラブコメを見ると楽しいよという話の、その基礎の基礎の話でした。

 それにしても『俺妹』は名作ですね。だれがなんといおうと、ぼくは作者の選んだ結末を支持します。素晴らしい。

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