その他

「生まれたあと自分で選択していて、なおかつ容易に変えることができる属性」への攻撃だって差別だよ。

 まあ、タイトル通りの内容です。タイトルを見て「あたりまえじゃないか……」とため息を吐いた人は読まなくてもかまいません。

 ぼくもあたりまえだと思うのですが、広い世の中にはそう考えない人もいるらしいので書いておきます。

 さて、「差別」という概念はしばしば「生まれつきその人に備わっていて、容易に変えることができない属性への不当かつ一方的な攻撃」として定義されます。

 つまり、この定義を正しいとするなら、「生まれたあと自分で選択して、なおかつ容易に変えることができる属性」への攻撃は差別ではないということになります。

 したがって、まさにそのような属性であるオタクなどはいくら攻撃しようが、中傷しようが、それは差別にはあたらない、という理屈になるわけですね。

 それでは、この定義に問題はないでしょうか? あきらかにあるだろう、というのがぼくの立場です。

 「生まれたあと自分で選択して、なおかつ容易に変えることができる属性」への攻撃だって、悪質であれば差別に決まっています。それが差別でないというのは恣意的な定義に過ぎません。

 なぜなら、たとえ「容易に変えられる」属性であるとしても、なぜ変えなければならないのかわからないからです。

 「容易に変えられる属性への攻撃は問題ない」という考え方は、「攻撃されたら変えればいいのだから、その攻撃は差別にはあたらない」という意味でしょう。

 しかし、この理屈は「そもそもなぜその属性を変えなければならないのか?」という問いに答えてはくれません。

 「自分にとって大切なことを変えることを強要される」ということもまた、ひとつの被害です。そのような被害を生む行為は、差別以外の何ものでもないと考えます。

 たとえば普段、何かしらの民族衣装を着ている人が「その衣装、キモっ」、「ここは日本だからそういう格好はやめろ」といわれたとします。

 その場合、「民族衣装なんて着なければいい」、「自分で選んだ格好なんだから差別被害にはあたらない」といえるでしょうか?

 いえるわけがないですよね。その人には民族衣装を着て生活する権利があり、その権利を攻撃されたなら、それは立派な差別被害であるわけです。

 あるいは仮に何らかの理由で差別にはあたらないとしましょうか。そうだとしても、被害者が権利侵害を受けていることは間違いありません。

 重要なのは「その状況が差別被害の定義にあてはまっているかどうか」ではなく、「その人物が不当に人権を侵害されているかどうか」ですから、やはりこれは問題がある事態です。

 もしかしたら「いや、民族衣装のような生まれつきのアイデンティティを象徴するものに対する攻撃は差別だが、そうでないものに対する攻撃は差別ではない」という人もいるかもしれません。

 しかし、何がその人のアイデンティティを象徴しているのか、だれに決められるでしょうか? たとえばパンクファッションの男の子や、ロリータ服の女の子にとって、その服装はきわめて重要な意味を持っているかもしれません。それを不当に攻撃されることはやはり差別にあたるとぼくは思います。

 ですが、あえてくり返すなら、重要なのは「差別なのか、否か」ではありません。そもそも差別なら問題で差別でないなら問題なしという話ではないのです。

 そうではなく、あくまで不当な権利の侵害があるかどうかで問題のあるなしを見極めるべきでしょう。

 したがって、たとえ「生まれたあと自分で選択して、なおかつ容易に変えることができる属性」であるとしても、それを不当に攻撃されたなら怒っていいとぼくは思います。それは立派な差別被害以外の何ものでもありません。

 いわゆるオタク的な趣味もまたそのような後天的かつ変化可能の属性であるわけですが、だからいくら攻撃してもかまわない、ということにはなりません。

 もちろん、きちんとしたまっとうな根拠のある批判ならかまわないでしょうが、オタク趣味ないし文化に対して暴言や中傷を浴びせかけるのはやはり差別であり、なおかつ問題行動です。

 当然、何が正当なのか不当なのかを見極めることは必ずしも容易ではないでしょう。しかし、少なくとも「バカ」とか「死ね」といった罵言は、端的に問題があるといっていいでしょうし、そのような言葉を使って特定の文化を排撃する人間に理があるとは思えません。

 これはべつだんオタク趣味のみがどうこうという話ではなく、ほかの趣味、嗜好でも同じことです。

 先天的かつ変更不能な属性に対する不当な攻撃は問題だが、後天的かつ変更可能な属性に対する攻撃は問題ない、などということはありません。両方とも問題です。

 ほんとうに差別やヘイトスピーチに反対するなら、前者は問題だが後者はかまわない、などという態度を選べるはずがありません。

 もしそのような態度を取る人が実在するとすれば(実在するのかどうかは知りません)、その人物は実は差別の「悪」の本質を理解していない可能性が高いといえるでしょう。ぼくは、そう思います。

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